ストレスでの抜け毛は治る?改善までの期間と回復のカギ
ストレスによる抜け毛が増えると、毎日鏡を見るたびに不安になるもの。シャンプー後の排水溝や枕についた髪の毛を見て、落ち込む方は多いでしょう。
ストレス性の抜け毛は、原因を取り除けば多くの場合は回復します。多くの場合、半年から1年程度で改善が見られ、適切な対策で元の状態に戻すことが可能です。
本記事では、ストレスでの抜け毛が治る理由、回復までの具体的な期間、改善を早めるための実践的な方法をお伝えします。
回復のためにできることを一緒に見ていきましょう。
監修者

ヴィタリス製薬株式会社
代表取締役 浦部 一大朗
大手医療用医薬品製薬メーカーに4年在籍。高血圧治療薬や糖尿病治療薬といった生活習慣病薬から抗がん剤まで幅広い医薬品の情報提供に携わっておりました。現在は、家業である一般用医薬品メーカーヴィタリス製薬4代目社長として就任。
・東京薬科大学卒業。薬剤師資格保有
・大手製薬会社で医薬情報提供者(MR)として従事
・2023年7月よりヴィタリス製薬入社
・2024年10月より4代目代表取締役に就任
ストレスによる抜け毛は回復が見込める
ストレスによる抜け毛は、一時的に髪の成長サイクルが乱れることで起こります。
原因となるストレスが解消されれば、再び発毛のリズムが戻り、自然に回復していくケースが多いです。ただし、回復には適切なケアと一定の時間が必要です。
焦らずに、髪の生え変わりを支える生活習慣を整えていきましょう。
ストレスによる抜け毛が治る仕組み
ストレス要因が軽減されると、ヘアサイクルは徐々に正常な状態へと戻っていきます。
髪の毛は成長期・退行期・休止期というサイクルを経て生え変わりますが、ストレスによって休止期に移行した毛包も、ストレスが和らぐことで再び成長期へと移行する仕組みを持っているのです。
ストレスが軽減されると、自律神経やホルモンのバランスが整い、頭皮の血流も改善します。その結果、休止期にとどまっていた毛包が再び成長期に移行し、新しい髪の毛が生え始めます。
進行性の脱毛症との違い
AGAは放置すると進行する脱毛症ですが、ストレス性の抜け毛は原因を取り除くことで自然回復が期待できます。この違いを理解しておくことは、適切な対処を選ぶうえで重要です。
AGAの場合、男性ホルモンの影響でヘアサイクルが短縮され、治療を行わなければ薄毛が進行し続けます。
一方、円形脱毛症もストレスが引き金になる場合があるとされています。円形脱毛症は自己免疫反応が関係し、ある日突然、丸い形をした脱毛斑ができるのが典型的な症状です。
ストレスはあくまで誘因の1つであり、最大の原因は自己免疫疾患と考えられています。
早期に原因を見極めることで、適切な治療や対策を選択できるようになります。抜け毛が気になる場合は、専門医への相談も検討してください。
ストレスが抜け毛を引き起こす身体の変化
ストレスを感じると、身体にはさまざまな変化が起こります。これらの変化が複合的に作用し、髪の成長を妨げてしまうのです。
ストレスと抜け毛の関係は一つの原因で説明できるものではありません。ただし、主に以下の3つが関係していると考えられています。
- 自律神経の乱れ
- ホルモンバランスの崩れ
- ヘアサイクルの短縮
これらが組み合わさることで、通常は健康に育つはずの髪が十分に成長できないまま抜け落ちてしまう状態になるのです。
では、それぞれのメカニズムを詳しく見ていきましょう。
自律神経の乱れと血行不良
ストレスを受けると交感神経が優位な状態が続き、末梢血管が収縮して血流が低下しやすくなり、結果、頭皮の毛根に十分な栄養や酸素が届かないことで、髪をつくる毛母細胞の働きが鈍くなります。
成長期の髪が十分に育たないまま休止期へ移行し、抜け落ちやすくなるのです。
さらに、自律神経のバランスが崩れた状態が長く続くと、頭皮環境そのものが悪化します。皮脂の分泌量が不安定になり、頭皮が乾燥したり逆に脂っぽくなったりすることも。
ホルモンバランスの崩れ
ストレスがかかると、身体はストレスホルモンであるコルチゾールを分泌します。このホルモンの増加はホルモン全体のバランスを乱し、結果的にエストロゲンの分泌が低下することがあります。
エストロゲンには男性ホルモンの作用を抑える働きがあるため、その減少によって皮脂の分泌が増え、頭皮環境が悪化しやすくなります。
毛穴に皮脂が詰まったり、雑菌が繁殖したりすることで、髪の成長が阻害されてしまうのです。
一方、エストロゲンの低下によって男性ホルモンが相対的に増加することで、皮脂の分泌量はさらに増えます。過剰な皮脂は頭皮の毛穴を塞いでしまい、必要な栄養が毛根に届かなくなる原因となります。
このホルモンバランスの乱れは、ストレスが解消されても、すぐには元に戻りません。そのため、回復には一定の時間が必要になります。
ヘアサイクルの短縮
髪の毛は通常、成長期・退行期・休止期というサイクルを繰り返しています。
健康な状態では、全体の85~90%の髪が成長期にあり、2~6年かけてしっかりと成長しますが、ストレスによってこのサイクルが乱れると、成長期の髪の毛が早期に休止期へ移行してしまいます。
これを「休止期脱毛」と呼びます。
本来であれば数年かけて成長するはずの髪が、わずか数ヶ月で抜け落ちてしまうのです。
成長途中の細くて短い毛が抜けることで、全体的なボリュームが減少し、薄毛が目立つようになります。休止期に入った髪の割合が増えることで、一時的に多くの髪が抜ける状態になります。
ストレスによるヘアサイクルの乱れは、一時的なものでも放置すると長期化することがあるため、早めの対策が望ましいとされています。
ストレス性の抜け毛かどうか確認する方法
自分の抜け毛がストレス性なのか、それとも他の原因によるものなのかを見極めることは、適切な対策を取るうえで大切です。
セルフチェックで確認する方法を知っておくと、早期対応につながります。抜け毛の本数や毛根の状態、脱毛パターンなどを観察することで、ある程度の判断が可能です。
生活環境の変化とタイミングを照らし合わせることも、原因を特定する手がかりとなるでしょう。
抜け毛の本数と状態をチェック
1日の抜け毛が50〜100本程度であれば正常な範囲内とされています。しかし、100本以上の抜け毛が続く場合は注意が必要です。
抜け毛の毛根を観察してみましょう。正常な抜け毛の毛根は米粒のように膨らんでおり、白っぽい半透明の膜で覆われています。
一方で、太くしっかりした髪が抜けている場合は生理的な抜け毛と考えられます。シャンプー時に70〜80本以上の抜け毛が続くようであれば、早めに原因を見直しましょう。
脱毛パターンから判断する
ストレス性の抜け毛とAGAでは脱毛パターンが異なるため、症状によりある程度の判断をすることが可能です。
【ストレス性の抜け毛】
頭皮全体でびまん性に毛量が減るのが特徴です。全体的にボリュームが減ったと感じたり、髪が細くなったりする場合、ストレスが関係している可能性があります。
【AGA】
生え際や頭頂部など特定の部位から徐々に進行し、M字型やO字型といった典型的なパターンで薄毛が進みます。抜け毛の部位が限定されている場合、AGAの可能性も考えられます。
急に抜け毛が増えた場合は、ストレス性を含む一過性の脱毛症の可能性が高いとされます。
鏡で頭皮全体を確認し、特定の部分だけが薄いのか、それとも全体的にボリュームが減っているのかを観察してみましょう。
生活の変化と抜け毛の時期を照らし合わせる
ストレスを感じてから2〜3ヶ月後に抜け毛が増えることがあります。これは、髪の毛が成長期から休止期に移行するまでに一定の時間がかかるためです。
退行期と休止期を合わせるとおよそ3ヶ月ほどになり、そのタイムラグの後に抜け毛として現れます。
転職、引っ越し、人間関係のトラブル、身近な人の死別など、強いストレスを感じる出来事があったか振り返ってみてください。
円形脱毛症の研究では、患者の73.9%が発症または再発の6ヶ月以内にストレスの多い出来事を経験していたという報告もあります。思い当たる出来事がある場合、それが抜け毛の引き金になった可能性があるでしょう。
ただし、ストレスを自覚していない場合もあります。無意識のうちにストレスが蓄積されているケースも少なくないため、生活全体を見直してみることも大切です。
改善までにかかる期間の目安
ストレス性の抜け毛に悩む方が最も気になるのが、「いつ治るのか」という点でしょう。
回復までの期間には個人差があるものの、一定の目安を知っておくことで、焦らず適切なケアを続けられます。
ヘアサイクルの性質上、ストレスが解消されてもすぐに髪が生えてくるわけではありません。髪の毛の成長には時間がかかるため、長期的な視点で回復を見守ることが大切です。
ここでは、回復までの一般的な期間と、その理由について解説します。
早い人で2~3ヶ月、長い場合は半年以上
ストレスの原因が取り除かれてから、髪の成長期が戻り始めるまでには数ヶ月を要します。
これは、乱れた成長サイクルが整うまでの期間と、新しい髪が伸びるのに必要な時間を合わせたものです。
つまり、目に見える改善を実感できるまでには、6ヶ月ほどを目安にすると良いでしょう。
髪が伸びるスピードは1ヶ月に約1cmのため、抜け毛が減っても、ボリュームが戻ったと実感できるまでにはさらに時間がかかります。
回復期間に個人差が出る理由
回復までの期間に個人差が生じる理由はいくつかあります。
まず、ストレスの種類や強さによって、身体への影響の度合いが異なります。一時的な強いストレスと、慢性的に続く中程度のストレスでは、頭皮や髪への影響も変わってくるのです。
ストレス以外にも抜け毛の原因がある場合、それらを同時に改善しない限り、回復には時間がかかります。
また、ストレスが解消されたと思っても、自律神経やホルモンバランスが完全に元に戻るまでには時間がかかります。
身体の内側から徐々に回復していくため、焦らずに待つことが大切です。
回復の兆しを感じるサイン
回復が始まると、いくつかの変化に気づくことができます。代表的な変化をまとめましたので、確認してみましょう。
【抜け毛の本数】
最も分かりやすいのは、抜け毛の本数が徐々に減ってくることです。シャンプー時や枕についている髪の量が明らかに少なくなったら、良い兆候といえます。
【抜けた髪の毛根状態】
抜けた髪の毛根の状態も、回復のサインを見極めるポイントになります。
健康な状態で抜けた髪は、毛根が丸くふっくらとしており、白っぽい半透明をしています。
【産毛の量】
薄くなっていた部分に新しく細くて短い毛(産毛)が生えてきたら、髪の成長期が回復し、ヘアサイクルが正常に戻り始めたサインです。
産毛の量が増えてきたり、その産毛が太くなってきたりすれば、回復が順調に進んでいると考えて良いでしょう。
【髪のハリ・コシ】
髪にハリやコシが戻ってくることも、回復の重要なサインです。
以前よりも髪が太くしっかりしてきたと感じたら、頭皮環境が改善されている証拠といえます。
ただし、これらの変化が現れるまでには時間がかかります。すぐに効果が出ないからといって諦めず、継続的なケアを続けることが回復への近道です。
回復を促すために今日からできる対策
ストレス性の抜け毛を改善するには、日常生活の中で実践できる対策から始めることが大切です。
抜け毛の回復は時間がかかるものですが、適切なケアを継続することで、髪の成長サイクルを正常に戻すことが期待できます。
回復を早めるためには、生活習慣の改善、ストレス解消、ヘアケアの3つの柱を意識しましょう。
ストレスの原因を完全に取り除くことは難しくても、日々の小さな習慣を変えることで、頭皮環境の改善につながります。
ストレスを軽減する習慣を作る
ストレスを完全になくすことは難しくても、発散する方法を見つけることはできます。
適度な運動は、ストレス軽減に効果的な方法の一つです。ウォーキングなどの有酸素運動は、セロトニンの分泌を促し、自律神経のバランスを整えるため、新陳代謝の活性化や心肺機能の向上につながるとされています。
趣味や好きなことに没頭する時間を持つことも大切です。心理学的にも、趣味の時間はストレス軽減につながるとされています。
深呼吸や入浴など、日常生活の中で取り入れやすいリラックス方法もあります。1日の終わりにゆっくりと湯船に浸かることで、心身共にリラックスでき、ストレスが緩和されるでしょう。
自分なりのストレス発散方法を見つけて、継続することが回復への近道です。
睡眠の質を高める工夫をする
睡眠は髪の成長に欠かせない要素になります。
睡眠時間が短いと、髪の成長に必要なホルモンの分泌が減少してしまいます。
入眠直後のノンレム睡眠時に成長ホルモンが分泌され、IGF-1という物質が生成されます。この物質は毛母細胞の増殖を促進し、血行改善や髪のタンパク質量の増加に関わるとされているのです。
質の良い睡眠を取ることで、これらの働きが活発になり、髪の健康維持につながります。
【就寝前のスマホ・パソコンはNG】
良い睡眠をとるために、就寝前のスマホやパソコンは控えましょう。画面から発せられるブルーライトは覚醒効果があり、睡眠をつかさどるメラトニンの分泌を抑制してしまいます。
寝る直前はスマホの使用を避け、部屋の明かりを落として、眠る準備を整えることが睡眠の質を高めるポイントです。
髪の成長を支える栄養を摂る
髪の主成分はケラチンと呼ばれるタンパク質です。タンパク質、ビタミン、ミネラルをバランスよく摂取することで、髪の成長をサポートできます。
肉や魚、大豆製品などからタンパク質を、緑黄色野菜からビタミンを積極的に摂りましょう。
【亜鉛は髪の成長に不可欠】
亜鉛は髪の成長に特に重要なミネラルです。タンパク質の合成を支える働きがあり、髪の形成を助けることで、髪にハリやコシをもたらすとされています。
ストレスで消費されやすい成分でもあるため、牡蠣、レバー、ナッツ類などから意識的に摂取することが大切です。
また、過度なダイエットも避けましょう。食事量を極端に減らすと栄養不足を引き起こし、髪の成長に必要な栄養が頭皮に届かなくなります。
さまざまな食材を取り入れたメニューで、3食バランスの良い食事を心がけることが、髪の健康につながります。
頭皮に優しいヘアケアを心がける
シャンプー選びは頭皮環境を整えるために大切です。洗浄力が強すぎるシャンプーは頭皮の皮脂を過剰に落とし、頭皮の乾燥を招く恐れがあります。
シャンプーのすすぎ残しは頭皮トラブルの原因になります。耳の裏や髪の生え際などにシャンプーが残っていないか確認しながら、しっかり洗い流すことが重要です。
泡が残らない程度に十分すすぎ、ドライヤーで根元からしっかり乾かすことも大切です。
髪が濡れた状態で放置しておくと、頭皮に雑菌が繁殖しやすくなり、フケやかゆみ、抜け毛の原因になります。
髪の長さに関わらず、ドライヤーを使ってしっかり乾かしましょう。
医療機関への相談を検討するタイミング
セルフケアで改善が見込めるケースもありますが、すべての抜け毛が自力で回復するわけではありません。
進行性の脱毛症や自己免疫反応が関係するものは、専門的な治療が必要になります。
抜け毛の量が数ヶ月にわたって続いている場合や、円形の脱毛斑が現れたときは要注意です。早めに皮膚科や毛髪専門のクリニックで診察を受けると、原因に応じた治療を受けられます。
AGAや円形脱毛症など進行しやすい症状は、放置すると治療が長引く可能性があります。適切な時期に医師の診断を受けることで、効果的な改善策を見つけやすくなるでしょう。
抜け毛の量が増え続ける場合
3ヶ月以上セルフケアを続けても抜け毛が減らない場合や、日に日に増加していると感じるなら、ホルモンバランスや自己免疫など、別の要因が関係している可能性があります。
AGAは進行性の脱毛症として知られ、放置すると徐々に薄毛が広がります。思春期以降に発症し、年齢とともに進行するため、早期の対策が重要です。
円形脱毛症も再発を繰り返すうちに難治化するケースがあります。
単発型から多発型へ移行したり、脱毛範囲が拡大したりする恐れもあるため、気になる症状があれば早めに皮膚科や専門クリニックを受診するのが望ましいでしょう。
円形の脱毛斑ができた場合
円形または楕円形の脱毛斑が突然現れる円形脱毛症は、ストレスが引き金になると言われていますが、主な原因は自己免疫反応とされており、免疫が毛包を誤って攻撃することで発症します。
単発型の約80%は発症後数ヶ月から1年で自然治癒するとされています。
専門医による診断で症状の進行度を把握した後に、症状に応じてステロイド療法や光線療法などが行われ、改善が期待できます。
重症化を防ぐためにも、円形の脱毛斑を見つけたら放置せず、できるだけ早く医療機関に相談しましょう。
生活習慣の改善だけでは対処が難しい場合
睡眠や食事を見直し、ストレスケアを行っても抜け毛が改善しない場合は、医療機関での治療が必要な可能性があります。
AGAの治療では、男性ホルモンの働きを抑えるフィナステリドやデュタステリド、毛母細胞を活性化させるミノキシジルなどが用いられます。
ストレスによる抜け毛とAGAが重なっているケースもあるため、一度専門家の診断を受けると、より適切な治療方法を見極めやすくなるでしょう。
クリニックでは頭皮や毛根の状態を専用機器で検査し、個々の症状に合わせ、成長因子を含む注入療法やスカルプケアなど、医療的なアプローチが行われることもあります。
原因を正確に特定し、適切な治療を受けることが改善につながる可能性があるのです。