経営者になったのはいつごろですか?
20代後半のときですから、もう20年以上になりますね。といっても父は『オットセイ製薬』を経営していましたが、私は『エーコーパック株式会社』という別会社を経営していました。それがいろいろあってオットセイ製薬と合併することになり、社名も変更して『ヴィタリス製薬』となったわけです。
別会社では何をしていたのですか?
エーコーパックでは主にOEMとして芳香剤などの雑貨類をつくっていました。
それがなぜ合併することになったのですか?
あるときある会社から車用の芳香剤として、「灰皿にタバコを入れても燃えなくて安全な芳香剤をつくれないか」という話をもらいました。『大変な宿題をもらっちゃったな』と思いましたね。当時の当社の技術力ではすぐにその要望を開発することができず、化学系のさまざまな会社にお邪魔して相談しに足を運びました。その中で協力してくれる企業があり、条件を満たす芳香剤の開発に成功しました。
売れたのですか?
それが全然売れませんでした。その社長は「もう少ししたら売れるから待ってくれ」というのですが、1か月、2か月たってもまったく売れない。「月1トンは売れるから」というので、原料も大量に仕入れていたのですが、実際は月100キロしか出なかった。パートの人たちにお願いすると赤字になってしまうので、今の当社の役員と一緒に夜中2人で作業してつくっていました。1年たっても売れないので、その企業に「もう下りたいのですが」といったら、「間違いなく売れるからもう1か月だけ待ってくれ」と。私より30歳くらいも年上の方だったので、1か月だけ待ってみました。すると、それから本当に売れるようになったのですね。月1トンどころから700トンまで出るようになったんです。
それと合併がどう関係しているのですか?
時代はバブル景気のころでしたが、父がやっていたオットセイ製薬のことが気になったんですね。しかし、父とは経営方針が違っていたためぶつかっていたのですが、当時『オットセイ製薬』は不振でしたから、それを立て直そうとその芳香剤で得た利益を負債の返済や設備投資などにつぎ込んでいきました。そんな私の経営手腕を見て、「お前、オットセイ製薬を継がないか」と言ってきまして。それで合併して1つの会社にしたわけです。
社名も同時に変えたのはなぜですか?
私が小さいころ、『オットセイ製薬』の創業者である祖父が、小指がしもやけになるとよくオットセイの油を塗ってくれた。運動会や部活で筋肉痛になっているときも塗ってくれる。すると本当によくなるんですね。当時はなぜよくなるのか仕組みはわかりませんでしたけど、それは、カロペプタイドの末梢血管の拡張作用のお陰だったわけです。
小さいころ、カロペプタイドは私にとって万能薬のイメージでしたが、実際には「滋養強壮」「精力剤」のイメージが強く、売れるのもそうした商品ばかりでした。私の先々代も安易に、「オット“ピン”」という名前を商品名に使用するなど、そのイメージを前面に出して売っていたのも確かなのですが(笑)。いずれにせよ、精力剤としてだけじゃなくて、カロペプタイドを女性や子どもたちにも使ってもらえるようにしたいと思い、企業イメージを変える意味で社名変更に踏み切りました。
どんな意味が込められているんですか?
英語で「活力」のことを「バイタリティ」って言いますよね。その語源はラテン語の「ヴィタリス」なんです。うちはカロペプタイドからスタートしたので企業イメージにも合うなと。また語呂もいいなと。シンボルマークを青にしたのは、カロペプタイドは神秘的なので海の色が合っているなと。形も「vitalis」の「V」と海の「波」の力強さをイメージしてつくりました。我ながら気に入っています。
経営者として大事にしていることは何ですか?
昔からそうなんですが、「1人勝ちはよくない」という思いはすごく強いですね。1人だけ勝ってあとの人は痛い思いをするというのが好きになれない。仕事を通じて人間的に共に育ち、成長していくことが理想です。企業と手を組むにしても、お互いにメリットのある関係を構築しないと長続きはしません。「両得」ということを常に考えていますね。
真面目なんですね。
やめてください。私はもちろん真面目な部分もありますが、仲間たちとゴルフをしたりマージャンをしたり、お酒を飲むのも大好きなんです。社員を前にしてはあまり言えませんが、実は仕事より遊びのほうが楽しいくらいなんです(笑)。結構いい加減なんですよ。
夢はありますか?
「夢のある会社」にすることですね。うちには独自のいい素材があり、何といっても豊富な社員たちがいます。スタッフが集まって知恵を出し合うことで、いろんなことができるはずです。私は経営者なので、化学的なこと、マーケティング、企画、販売など一通りのことはわかります。社員たちが経験のある私を上手に活用して、いろんなことにチャレンジしてくれたらなと思います。世の中の不祥事を見てもわかるように、今は「大企業=信頼できる商品」の図式は崩れています。ブランドより「自分の目で確かめて買う時代」だと思います。だからこそ我々のようなスモールカンパニーにとっては大きなチャンスでもある。ぜひ道を切り開いていきたいですね。
やっぱり真面目なんですね。
そんなことないです。それだけはやめてください(笑)。