髪がスカスカなのは男性ホルモンが原因?AGAとの関係を解説
髪がスカスカになり、地肌が目立ってくると将来への不安が大きくなります。
男性ホルモンが薄毛の原因といわれることがありますが、その仕組みは意外と知られていません。実は、男性ホルモンの影響によって生じる薄毛の一部は「AGA(男性型脱毛症)」と呼ばれます。
この記事では、男性ホルモンと髪の関係、そしてAGAがどのように進行するのかを分かりやすく解説します。
監修者

ヴィタリス製薬株式会社
代表取締役 浦部 一大朗
大手医療用医薬品製薬メーカーに4年在籍。高血圧治療薬や糖尿病治療薬といった生活習慣病薬から抗がん剤まで幅広い医薬品の情報提供に携わっておりました。現在は、家業である一般用医薬品メーカーヴィタリス製薬4代目社長として就任。
・東京薬科大学卒業。薬剤師資格保有
・大手製薬会社で医薬情報提供者(MR)として従事
・2023年7月よりヴィタリス製薬入社
・2024年10月より4代目代表取締役に就任
髪がスカスカになるとはどのような状態?
髪がスカスカになるとは、髪の密度が低下し、頭皮が透けて見えやすくなっている状態を指します。
髪を濡らすと頭皮が目立つようになった、あるいは分け目の地肌が気になるといった変化に気づくかもしれません。
特定の部分だけが薄くなるケースや、全体的にボリュームが失われるケース、髪の本数自体の減少の他、1本1本が細く弱々しくなることでも、ボリュームが失われてスカスカに見えることがあります。
頭皮が透けて見える状態
髪が濡れると頭皮が見えるのは普通のことですが、乾いた状態でも頭皮が透けて見える場合は注意が必要です。
髪が濡れている時は、まとまって束になり隙間が空いてしまうため、地肌が目立って見えてしまいます。
つむじや分け目など、もともと地肌が見えやすい部分だけ透けて見える場合は心配いりません。
また、太陽光や強い照明に当たった時に頭皮が透けるのは、髪の間に光が入り込んで影を消すため、毛量が多すぎる方以外であれば普通のことです。
それでも、髪の毛が伸びてきたのに頭皮が透ける、髪の毛が細くなったなどの自覚がある場合は、薄毛が進行している可能性があります。
髪の密度が低下している状態
髪が細く弱々しくなっている状態、または本数自体が減ってしまうことによって、頭皮が透けて見えたり、スタイリングが思うようにいかなくなっていく現象が起こります。
一般的に、1つの毛包から2〜3本の毛が生えていますが、薄毛が気になる部分では毛の本数が少なかったり、細くなっていることがあります。
髪がスカスカになると、髪全体に生気がなくなり、ツヤもコシも失われてしまうので、ハードタイプのスタイリング剤をつけても髪の毛は根元からしっかり立ち上がらない状態になります。
男性ホルモンとAGAの関係について
「髪がスカスカになってきた」
と感じている男性は、男性ホルモンとAGAの関係を知っておくことが大切です。
実は、男性ホルモン自体が直接薄毛を引き起こすわけではありません。テストステロンという男性ホルモンが、ある酵素と結びつくことで変化し、薄毛の原因となる物質が生まれます。
この仕組みを理解することで、なぜ髪がスカスカになるのか、どう対処すればよいのかが見えてきます。
テストステロンと5αリダクターゼの働き
男性ホルモンであるテストステロンは、筋肉や骨の成長、生殖機能の維持などに欠かせないホルモンです。
しかし、このテストステロンが「5αリダクターゼ」という酵素によって変換されると、より強力な男性ホルモンであるDHT(ジヒドロテストステロン)に変化します。
5αリダクターゼはⅠ型とⅡ型の2種類あり、それぞれで分布する部位が下記のように異なります。
【5αリダクターゼの分布】
Ⅰ型:全身の毛乳頭に多く分布(皮脂腺・側頭部・後頭部など)
Ⅱ型:前頭部や頭頂部の毛乳頭や前立腺に多く分布
特にⅡ型の活性が高いと、DHTの影響で毛根の成長が抑制され、AGAを発症しやすくなることが知られています。
また、DHTの作用は髭や体毛を濃くする一方で、頭髪の成長を抑える傾向があるため、DHTの影響を受けやすい体質の人では薄毛が進行しやすいとされています。
DHT(ジヒドロテストステロン)が髪に与える影響
DHTは、テストステロンが5αリダクターゼの作用によって変換されて生じる強力な男性ホルモンです。
このDHTが毛乳頭細胞に存在するアンドロゲンレセプター(男性ホルモン受容体)と結合すると、TGF-βなどの脱毛を促進する因子が増加します。
その結果、髪の成長を担う毛母細胞の働きが低下し、髪の成長期が大幅に短縮されます。
【「髪がスカスカになった」と感じる理由】
通常2〜6年続く成長期が数ヶ月から1年ほどに短くなることで、髪が十分に太く成長しないまま抜け落ち、細く短い軟毛が増えていきます。
DHTは胎児期の男性外性器形成には必要なホルモンですが、成人以降はAGAやニキビ、前立腺肥大などの原因となることから、「悪玉男性ホルモン」と呼ばれることもあります。
ただし、DHTの量そのものよりも、毛乳頭内のアンドロゲンレセプターがDHTにどれだけ反応しやすいか(感受性)が、AGAの発症に大きく関わると考えられています。
前頭部と頭頂部に薄毛が起こりやすい理由
AGAによる薄毛は、前頭部(生え際)と頭頂部(つむじ周辺)から始まるのが特徴です。
これは、これらの部位で5αリダクターゼⅡ型の発現が特に高く、テストステロンからDHTへの変換が活発に行われるためです。
一方、側頭部や後頭部は5αリダクターゼⅠ型の比率が高く、Ⅱ型ほどAGAに強く関与していないため、髪が残りやすい傾向にあります。
そのため、AGAが進行しても側頭部や後頭部の髪は比較的残りやすく、M字型やO字型といった特徴的な薄毛のパターンが現れます。
さらに、DHTが影響を与えやすい毛包は前頭部と頭頂部に集中していることも、研究によって明らかになっています。
髪がスカスカになる主な原因
髪がスカスカになる原因は複数ありますが、男性の場合は、男性ホルモンの代謝物であるDHT(ジヒドロテストステロン)の影響が大きく関わっています。
では、どのような要因が髪の密度低下を招くのでしょうか。
ここでは髪がスカスカになる主な3つの原因について解説します。それぞれの原因を理解することで、適切な対策につながるでしょう。
男性ホルモンによるヘアサイクルの乱れ
男性ホルモンの一種であるテストステロンは、5αリダクターゼによってジヒドロテストステロン(DHT)に変換されます。
このDHTが毛乳頭細胞内のアンドロゲンレセプターと結合すると、ヘアサイクルが乱れ、成長期が短縮されることで髪の成長が妨げられます。
ヘアサイクルとは、髪の毛の成長期、退行期、休止期を繰り返す一定の周期のことを指します。常な毛髪は、成長期が2〜6年程度あり、この間に太く長い毛髪へと成長していきます。
このように、太く成長する前に軟毛化し、抜け毛が増えていく過程がAGA(男性型脱毛症)の特徴です。
生活習慣の乱れと頭皮環境の悪化
睡眠不足や栄養バランスの乱れた食事、運動不足などは、髪や頭皮の健康を損なう要因とされています。
特に、仕事の都合で食事や睡眠のリズムが不規則になりやすい方は、生活リズムの乱れが続くことで薄毛のリスクが高まる傾向にあります。
成長ホルモンは睡眠中、特に深いノンレム睡眠の間に多く分泌され、毛髪の成長をサポートするため、睡眠不足や質の悪い睡眠は、成長ホルモンの分泌を妨げ、髪の健康を損なうおそれがあるのです。
また、ストレスが続くと副腎皮質からコルチゾールが分泌され、血流の低下や毛包の活動低下を引き起こすことが報告されています。
食事が不規則になると、髪の成長に必要な栄養素(たんぱく質、ビタミンB群、亜鉛、鉄分など)が不足しがちです。
さらに、高脂肪・高カロリーな食生活は動脈硬化のリスクを高め、頭皮の血流を悪化させる要因となります。
遺伝による体質
薄毛そのものが遺伝するわけではなく、薄毛になりやすい体質が遺伝すると考えられています。
この体質には、男性ホルモンの働きに関わる「5α-リダクターゼ」や「アンドロゲンレセプター」といった要素が深く関係しています。この酵素の活性が高い人ほど、DHTが多く生成され、抜け毛や薄毛が進行しやすい傾向があります。
一方、毛乳頭に存在するアンドロゲンレセプターは、DHTを感知するとヘアサイクルを乱して髪の成長を抑制します。
このレセプターの感度にも個人差があり、遺伝的要因が大きく関わることが知られています。
髪がスカスカかどうか自分で確認する方法
髪の変化は毎日鏡を見ていても気づきにくいもの。薄毛は徐々に進行するため、気づいたときにはかなり進んでいるケースも少なくありません。
AGAは進行性の脱毛症であり、早期発見・早期対応が重要なため、ここでご紹介する自宅で簡単にできるセルフチェックを役立ててください。
ただし、セルフチェックは医学的な診断ではないため、気になる症状がある場合は専門の医療機関に相談することをおすすめします。
生え際の後退をチェックするポイント
生え際の後退は、AGAの典型的な症状の一つです。ただし、これから紹介するセルフチェックはあくまで目安であり、正確な診断には医師の診察が必要です。
①目を見開いて額にシワを作り、最上部のシワに指を2本置く
生え際までの距離が指2本以上ある場合、生え際が後退している可能性があります。
②耳の真上から頭頂部へ線を引き、その線と生え際の最も深い部分との距離を測る
この距離が2cm以上になっている場合は、後退が進んでいる可能性があります。
③過去の写真との比較
生え際の後退は徐々に進むため、自分では気づきにくいものです。数年前の写真と現在の状態を比べることで、変化を客観的に判断できます。
④生え際の産毛を確認
正常な状態であれば、生え際から太い毛が隙間なく生えています。産毛のような細く短い毛がピンピンと飛び出していたり、細い毛が増えてきた場合は、AGAの初期兆候である可能性があります。
髪の太さや密度を確認する方法
髪の太さや密度の変化は、薄毛の重要なサインです。手鏡や拡大鏡を使って、頭頂部や前頭部の髪の状態を定期的に観察しましょう。
AGAが進行すると、太く長い毛が細く短い軟毛に置き換わっていくため、側頭部や後頭部の髪質と比べることで、変化に気づきやすくなります。
【髪の太さ・密度の確認方法】
①スマートフォンのカメラ機能を活用
同じ角度・同じ照明で定期的に撮影することで、自分自身の目で変化を確認することができます。撮影画像を長期的に保存して振り返って確認できるため、おすすめの方法です。
②手鏡や鏡の活用
頭頂部は自分では見えにくい部位なので、手鏡を2つ用意して鏡越しに確認することで、正確に状態を確認することができます。
③家族や友人による確認
自分自身での確認が難しい場合、家族や友人に定期的な確認をしてもらうことも1つの方法です。但し、確認してもらう方は毎回同じ方にしないと比較できないので注意しましょう。
尚、どのご確認方法の場合も髪が濡れている状態では正確に判断できないため、必ず乾いた状態でチェックしてください。
髪のハリやコシがなくなり、ペタンとなってスタイリングがしにくくなることも、髪質の変化を示すサインです。
1日50〜100本程度の抜け毛は正常範囲ですが、枕元やシャンプー後の排水溝に以前より多くの髪が見られる場合は、AGAの可能性を含め、何らかの脱毛が進んでいるサインかもしれません。
髪がスカスカの状態に対するアプローチ
髪のボリュームが減ってくると、見た目の印象や気持ちにも影響します。
ただし、生活習慣やヘアケアの見直し、専門的な治療など、対策によって改善が期待できる場合もありますので、諦めないでください。
ここでは、髪の状態に合わせた具体的なアプローチ方法を紹介します。
生活習慣を見直す方法
髪の健康は、日々の生活習慣と深く関わっています。
睡眠不足や栄養の偏り、運動不足などは、頭皮の血流やホルモンバランスに影響し、薄毛を進行させる一因になると考えられています。
睡眠の質を整える
髪の成長を促す成長ホルモンは、入眠後3〜4時間の「深い睡眠中」に多く分泌されます。
質のよい睡眠をとるために、下記を中心に生活リズムを整えることが大切です。
- 1日7時間を目安に眠る
- 寝る前のスマホやカフェインを控える
食事バランスを意識する
髪の主成分である「ケラチン」はタンパク質の一種です。タンパク質だけでなく、鉄分や亜鉛、ビタミンB群なども髪の生成に関与します。
【特に意識的に取り入れたい栄養素】
- 鶏肉や卵などの良質なタンパク質
- ひじきやほうれん草などのミネラル類
適度に体を動かす
軽い運動は血流を促進し、ストレス緩和にも役立ちます。
特に朝の散歩(30分程度)は、自律神経のバランスを整え、髪や体の調子をサポートするため、おすすめです。
タバコや飲酒に注意
喫煙は毛細血管を収縮させ、髪に必要な栄養が届きにくくなります。また、過度な飲酒もホルモンバランスを乱す原因になるため、控えめを心がけましょう。
頭皮環境を整えるヘアケア
健やかな髪を育てるためには、頭皮環境を清潔で健康に保つことが欠かせません。
そのためには、シャンプーの選び方・洗い方・乾かし方など、毎日のケアを正しく行うことが大切です。
シャンプー選びのポイント
シャンプーは「アミノ酸系洗浄成分」が配合されたものを選びましょう。刺激の強い高洗浄タイプは、必要な皮脂まで落としてしまい、乾燥やフケ、かゆみの原因になることがありますので注意してください。
【タイプ別おすすめシャンプー】
- 頭皮が乾燥しやすい人:保湿成分入りのシャンプー
- 皮脂が多い人:アミノ酸系の中でも洗浄力がややしっかりした成分のシャンプー(例:ラウロイルメチルアラニンNaなど)
正しい髪の毛(頭皮)の洗い方
①洗う前にブラッシングで汚れを軽く落とす
②お湯でしっかり予洗いする(約1分)
③シャンプーを手で泡立て、指の腹で優しくマッサージ洗い
④シャンプーが残らないよう、時間をかけてすすぐ
頭皮マッサージで血行促進
頭皮マッサージは、血流を良くして髪の成長をサポートします。特に入浴時や洗髪後など、体が温まっているタイミングが効果的です。
【頭皮マッサージのポイント】
- 両手の指の腹で頭皮を軽く押し上げるように
- 1日2回、1回あたり3~5分程度を目安に
乾かし方にも注意
洗髪後はタオルで水分をしっかり取り、ドライヤーは頭皮から20cmほど離して使用します。
専門クリニックで相談する選択肢
生活習慣の改善やヘアケアを続けても変化が見られない場合は、専門クリニックで相談してみるのも一つの手です。
AGAクリニックでは、主に内服薬や外用薬を使った治療が行われています。
主な治療方法
- 内服薬(フィナステリド・デュタステリド):薄毛の原因となる男性ホルモン(DHT)の生成を抑える。
- 外用薬(ミノキシジル):毛母細胞を刺激して、新しい髪の成長を促す。
クリニック選びのポイント
①専門医の有無
AGA治療を専門とする医師が在籍しているかを確認しましょう。症状に合った治療を提案してもらうことができます。
②費用の明確さ
AGA治療は自由診療のため、料金設定はクリニックによってさまざまです。初診料・再診料・薬代など、費用の内訳をしっかり確認しておきましょう。料金表が不明確なところは避けたほうが無難です。
③通いやすさ
駅から近い立地やオンライン診療に対応しているクリニックを選ぶと続けやすくなります。治療は継続が大事ですから、自分の生活リズムに合うところを選ぶのがポイントです。