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薄毛は遺伝する?母方の祖父から受け継ぐ仕組みと今できる対策

薄毛は遺伝する?母方の祖父から受け継ぐ仕組みと今できる対策
2025.11.25
 

母方の祖父が薄毛だと、自分の髪の将来が心配になるものです。鏡を見るたびに生え際や頭頂部の変化が気になり、遺伝だから仕方ないと諦めている方も少なくありません。

薄毛には遺伝的な要因が関係するとされており、母方から受け継ぐ特定の遺伝子が髪の成長に影響する可能性があります。

ただし、遺伝だけで決まるわけではありません。生活習慣やホルモンバランスなど、後天的な要素も大きく関わります。遺伝の仕組みを理解すれば、自分に合った予防法や治療法を選べます

今日から始められる生活習慣の改善や医療的アプローチまで、具体的な対策方法を紹介しますので参考にしてください。

監修者

浦部 一大朗

ヴィタリス製薬株式会社
代表取締役 浦部 一大朗

大手医療用医薬品製薬メーカーに4年在籍。高血圧治療薬や糖尿病治療薬といった生活習慣病薬から抗がん剤まで幅広い医薬品の情報提供に携わっておりました。現在は、家業である一般用医薬品メーカーヴィタリス製薬4代目社長として就任。

・東京薬科大学卒業。薬剤師資格保有
・大手製薬会社で医薬情報提供者(MR)として従事
・2023年7月よりヴィタリス製薬入社
・2024年10月より4代目代表取締役に就任

薄毛が母方の祖父から遺伝しやすいといわれる理由

母親の家系をたどると、自分の将来の髪の傾向をある程度知る手がかりになるかもしれません。男性の薄毛の多くを占めるAGA(男性型脱毛症)には、遺伝的な要因が関係していると考えられています。

特に、母方の祖父の髪の状態が影響するといわれるのは、特定の遺伝子が母親を介して受け継がれる可能性があるためです。

この仕組みを理解しておくことで、自分に合った予防や早めのケアを検討しやすくなります。

X染色体に関係する遺伝子が影響しているとされる

薄毛の遺伝には性染色体が関わっているといわれています。男性はXY染色体を持ち、X染色体は母親から受け継ぎます。

このX染色体上にあるアンドロゲンレセプター(男性ホルモン受容体)の感受性を決める遺伝子が、AGAの発症に関与していると考えられています。

この感受性が高いと、薄毛の原因物質とされるDHT(ジヒドロテストステロン)の影響を受けやすくなるのです。

母親自身は女性ホルモンの影響で薄毛が目立ちにくいため、母方の祖父の髪質が孫に現れるように見えることがあります。

母方の祖父が薄毛の場合の遺伝確率

一部の研究や調査では、母方の祖父が薄毛の男性である場合、孫世代の男性が薄毛を発症する可能性は約75%、さらに祖父と曽祖父の両方が薄毛の場合は約90%にのぼるとの報告もあります。

これは、母親を介してX染色体上の薄毛関連遺伝子が受け継がれる仕組みによるものです。

祖父から母、そして母から息子へと遺伝情報が伝わるため、隔世遺伝のように見えるケースもあります。ただし、これらの数値はあくまで一部の報告に基づくものであり、個人差があります。

生活習慣やホルモンバランス、ストレスなどの環境要因も薄毛の進行に関与するため、遺伝的素因があっても適切な対策で進行を抑えられる可能性は十分にあります。

参照元:AGAは遺伝要素大。母方の祖父が薄毛の場合は約75%の確率|DMMオンラインクリニック

父方からも遺伝する可能性がある

母方の影響が大きいとされる薄毛遺伝ですが、父方からの遺伝も無視できません。5αリダクターゼという酵素の活性度は常染色体に存在する遺伝子によって左右されます。

この酵素は男性ホルモンのテストステロンをDHT(ジヒドロテストステロン)に変換する役割を持ち、その活性が高いとAGAを発症しやすくなるとされています。

常染色体は父親・母親の両方から受け継がれるため、父方の家系に薄毛の人がいる場合も発症リスクが高まる傾向にあります。

また、5αリダクターゼの活性に関わる遺伝要因は、単一の遺伝子だけでなく複数の因子が関与すると考えられています。

そのため、母方・父方の両方に薄毛の家系がある場合、遺伝的リスクがより高くなる可能性があるのです。

薄毛が遺伝する仕組みとAGAのメカニズム

薄毛が遺伝する理由を理解するには、AGA(男性型脱毛症)の発症メカニズムを知る必要があります。遺伝的な要因と男性ホルモンの働きが複雑に関わり合い、髪の成長サイクルに影響を与えるのです。

ここでは、どのようにして薄毛が進行していくのかを見ていきましょう。

男性ホルモンと5αリダクターゼの働き

AGAの発症には男性ホルモンが深く関わっています。

体内で分泌されるテストステロンという男性ホルモンが、5αリダクターゼという酵素の働きによってDHT(ジヒドロテストステロン)に変換されます。

DHTはテストステロンよりも作用が強く、毛乳頭細胞にあるアンドロゲンレセプターと結合すると、髪の成長期を短縮させてしまうのです。

5αリダクターゼにはⅠ型とⅡ型の2種類があり、Ⅰ型は主に皮脂腺などに、Ⅱ型は前頭部や頭頂部の毛包に多く存在します。

特にⅡ型の活性が高いと、AGA特有のM字型・O字型の脱毛パターンが生じやすくなります。この酵素の活性度には個人差があり、遺伝的に活性が高い人ほどDHTが生成されやすく、薄毛が進行しやすくなるのです。

参照元:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10583052/

アンドロゲンレセプターの感受性

DHTが産生されても、それだけでは薄毛になるわけではありません。

重要なのはアンドロゲンレセプター(男性ホルモン受容体)の感受性です。このレセプターがDHTに対してどれだけ敏感に反応するかによって、薄毛の進行度を左右します。

アンドロゲンレセプターを作る設計図(AR遺伝子)はX染色体にあります。

この遺伝子の中には「CAG」という並びが何回も続く部分があり、その繰り返しの長さ(回数)によって、レセプターの反応のしやすさが変わるのです。

この繰り返し数が短いほど感受性が高く、DHTの影響を受けやすい体質になり、リピート数が多いと感受性は低下します。

感受性が高い場合、DHTがアンドロゲンレセプターと強く結合し、毛母細胞の活動を抑制して髪が細く短くなり、最終的には抜け落ちてしまうのです。

参照元:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022202X15411753

自分が薄毛遺伝子を持っているか確認する方法

遺伝的な薄毛のリスクを知ることは、早期対策の第一歩です。

自分が薄毛になりやすい体質かどうかを確認する方法には、家族歴のチェックと遺伝子検査があります。それぞれの方法について見ていきましょう。

家族の薄毛パターンをチェックする

最も手軽にできるリスク確認方法は、家族の薄毛パターンを観察することです。

特に母方の祖父、曽祖父の髪の状態が重要な手がかりで、母方の家系に薄毛の人が多い場合、遺伝的な影響を受けている可能性が高いと考えられます。

父方の家系もチェックしましょう。父親や父方の祖父に薄毛の人がいる場合、5αリダクターゼの活性が高い遺伝子を受け継いでいる可能性があります。

兄弟姉妹の髪の状態も参考になりますが、同じ遺伝子を共有していても、発症時期や進行度には個人差があるため、家族内で比較することで自分のリスクをある程度推測できます。

写真を見返して家族の若い頃の髪質を確認するのも有効な方法です。

遺伝子検査で調べる選択肢

より正確にリスクを把握したい場合は、AGA遺伝子検査という選択肢があります。

この検査では、アンドロゲンレセプター(AR)遺伝子の感受性を調べることで、AGAの発症リスクを数値化するのです。

主にCAGリピート数を解析し、38以下の場合はDHTの影響を受けやすく、薄毛リスクが高いとされています。一部の検査ではGGCリピート数もあわせて評価されます。

クリニックで受ける場合、費用は15,000円から30,000円程度が相場です。口腔内の粘膜を採取するだけで痛みはなく、2週間から4週間程度で結果が分かります。

自宅で行える検査キットも市販されており、10,000円から20,000円程度で購入可能です。

ただし、検査は遺伝的リスクを示すものであり、必ず発症するかどうかを断定するものではありません。結果を参考にして、医師と相談しながら適切な予防策や治療を検討することが大切です。

遺伝以外で薄毛になる原因

薄毛の原因は遺伝だけではありません。日々の生活習慣やストレス、栄養バランスなど、さまざまな要因が複雑に絡み合って薄毛を進行させます。

遺伝的素因があっても生活習慣を見直すことで進行を抑えられる場合があり、逆に遺伝的リスクが低くても、不規則な生活やストレスで薄毛が進むこともあります。

ここからは、遺伝以外で薄毛を招く主な原因を見ていきましょう。

生活習慣の乱れが頭皮環境に与える影響

生活習慣の乱れは、頭皮環境を悪化させて薄毛を招く一因になります。

脂質や糖質の多い食事、過度な飲酒、睡眠不足が続くと、髪の成長に必要な栄養が十分に届かず、髪が育ちにくい状態になるのです。

睡眠不足による自律神経の乱れや血行不良は、毛根への酸素・栄養供給を妨げ、髪の成長を阻害し、過度な飲酒や喫煙も血流を悪化させ、頭皮環境の悪化を招きます。

また、運動不足は全身の血行を滞らせ、頭皮への栄養供給を減らす原因になります。

ストレスによる血行不良

ストレスは自律神経を乱し、血管を収縮させることで頭皮の血行を悪くします。

血流が滞ると、髪の成長に必要な酸素や栄養が毛根まで届きにくくなり、髪が細く弱くなる原因となるのです。

また、ストレスによって肩や首の筋肉が緊張すると、頭皮も硬くなり血流がさらに悪化します。

栄養不足と睡眠不足

栄養不足と睡眠不足は、薄毛を招く代表的な要因となります。

髪の主成分はタンパク質(ケラチン)ですが、体内の栄養は生命維持に必要な臓器から優先的に使われるため、毛髪や肌は後回しになりやすい傾向があります。

栄養が不足すると、頭皮や毛根に十分な栄養が行き届かず、新しく生える髪のハリやコシが低下してしまうのです。

また、睡眠不足は髪の成長に関わる成長ホルモンの分泌を減少させ、頭皮細胞の新陳代謝を妨げます。

睡眠中は副交感神経が優位になり血流が良くなるため、睡眠時間が短いと毛根への栄養供給が滞り、薄毛のリスクが高まる可能性があります。

今からできる薄毛の進行を抑える対策

薄毛の進行を抑えるには、今日から始められる対策があります。

生活習慣の見直しから専門的な治療まで、さまざまな方法がありますが、どの方法をとっても薄毛は早めの対応がカギです。

自分に合った方法を見つけて、少しずつ実践していきましょう。

生活習慣を見直して頭皮環境を整える

生活習慣を整えることは、頭皮環境の改善と薄毛の進行抑制に欠かせません。

日本皮膚科学会ガイドラインによると日本人男性の約30%がAGAを発症すると言われていますが、生活習慣の乱れはその進行を助長する可能性があります。

食事を見直す

栄養バランスの取れた食事を心がけ、髪の主成分であるタンパク質や、髪の成長を促すビタミン・ミネラルを摂取しましょう。

睡眠の質を高める

睡眠不足は髪の成長や修復を妨げます。1日6時間以上を目安に、規則正しい睡眠リズムを意識しましょう。

運動で血流を促進する

ウォーキングやサイクリングなどの有酸素運動は血流を改善し、頭皮へ栄養を届けやすくします。継続的に行うことで、頭皮と髪の健康を支えます。

AGA治療の選択肢と早期対応の重要性

AGA治療には複数の選択肢があり、早期に対応することで高い効果が期待できます。

中心となるのは投薬治療です。内服薬にはフィナステリドやデュタステリドがあり、男性ホルモンが脱毛原因物質(DHT)に変換されるのを阻害し、抜け毛を抑制します。

外用薬ミノキシジルの効果は、頭皮の血流を改善し、毛母細胞の働きを活性化させて発毛を促進することです。

フィナステリドやデュタステリドでは、早ければ1〜3カ月で抜け毛の減少が見られることがありますが、効果を実感できるまでにはいずれの薬も3〜6カ月程度かかるとされています。

AGAは進行性の疾患であり、治療開始が遅れると改善しにくくなる傾向があります。

毛包の機能が残っている段階であれば、発毛を促して薄毛の改善が期待できるため、気になる症状がある場合は早めに医師へ相談することが大切です。

近年では、スマートフォンなどを利用したオンライン診療と、クリニックでの対面診療を併用するスタイルが増えており、通院負担も軽減されています。

育毛剤やシャンプーの適切な選び方

育毛剤やシャンプーを選ぶ際は、自分の頭皮の状態に合った製品を選ぶことが大切です。

シャンプーは、皮膚や髪に近い弱酸性で刺激の少ないアミノ酸系洗浄成分を配合したものがおすすめです。洗浄力が強すぎると必要な皮脂まで落としてしまい、頭皮の乾燥やフケ・かゆみを招くことがあります。

乾燥が気になる場合は保湿成分配合のもの、かゆみやフケが気になる場合は抗炎症・殺菌成分を含むものを選びましょう。

育毛剤を選ぶ際も、低刺激で頭皮に合う製品を選ぶことが大切ですが、市販のシャンプーや育毛剤には発毛効果は期待できません。

発毛を目的とする場合は、医師の診察を受けて医薬品による治療を検討しましょう。

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